登山を趣味にしていると言うと、けっこうよく受けるのが「登山の何が楽しいの?」という質問。
その答えが人それぞれなのは当然ですが、いわゆる模範解答としては、
「山頂からの景色は最高だよ!」とか、「登りきったときの達成感は他では味わえない!」といったあたりがすぐに思い浮かびますよね。
かく云うわたしもこれまで、そんなような返答をしてきたのですが、そう答える度に『若干の違和感』を感じていた事をここに白状します(嘘ではないのですが)。

端的に言って「そんな立派なもんじゃないんだよなあ……」という感覚。
言うなれば「楽しいから」というシンプルかつ、答えのようで答えになっていない返答が一番しっくりきてたりします。
そんな折、先日ふと自分の納得のいく答えに行き当たったので、文章にして残しておこうと考えました。
結論として先に申し上げると、『登山=リアルRPGだから』理論。
かんたんに先が想像できそうですが、、詳しく紹介していきます。
その前に、
注:登山はゲームではありません
最初に前置きしておかなければならないのは、ここで使う「RPG=ロールプレイングゲーム」ですが、もちろん登山にゲーム性はあってもゲームではありません。
命に関わる危険も多く、「ゲーム」という言葉の浮ついたニュアンスで入山するのは御法度。死んだら終わりです。
当然ご承知のことかと思いますが、念のため最初に申し上げておきます。
もくじ
端から端まで買えたらつまらない
さて本題です。
この考えに至った経緯としては、つい最近、登山用品店で厳冬期用ギアを見ていて「どれもこれもめっちゃ軽いし、めっちゃ暖かそう。うわー全部欲しいわ!」と一時的に胸を躍らせたのですが、
即座に「あ、全部はいらねえわ!」とツッコミを入れる自分に気がついたときのことでした。

そう、金銭的な理由抜きにして、端から端までギアを手に入れる事ができてしまったら、
- 道具を比べるワクワク感
- 数あるギアの中から一つを選び抜いた喜び
- 厳選した道具が目的に合っていたか検証する楽しみ
これら全てを手放すことになるわけです。
「そりゃつまらん」
かくして、わたしは『登山=リアルRPGだから楽しい』という理由に思い至ったのでした。
なぜ『登山=RPG』なのか

すでにお察しかとは思いますが、まず最初に『登山=RPG』のわかりやすい要因として、登山ほど装備を自分で整えて行うアクティビティはない、という点を例にあげたいと思います。
もちろん登山以外にも、たくさんの道具を要する趣味は少なくありませんが、山に入る行為は「即座に中断することができない」点で、より万全な装備を必要とします。
これはさながら、RPGにおいて武器屋や道具屋でイベントクリアに必要な物資を買い揃えることに似ています。
『防御力を上げる装備』はもちろん、『回復薬や解毒薬』、『洞窟を照らすランプ』などがなければ、イベント攻略を完遂することはできません。
レベルアップするから登山は楽しい

装備や道具については後述しますが、それ以上に重要なことは『セーブポイント』は言わば自宅なので、仮に『ボス討伐の目的』が一度で達成できなくても帰宅さえできれば体力を回復して再び挑戦することができる点です。
したがって『レベル1の勇者』はやさしい行程からスタートしなければ命を落とす恐れがあり、そこから経験値が備わってくると『辿り着ける街』が増え、より強力な『モンスター』を倒し得るレベルに到達できるということになります。
例えば、頂上に到達する前の段階で想像以上に体力を削られてしまったら、『ボス討伐(=ピークハント)』は諦めて撤退しましょう。生きて帰ればまた挑戦できますし、その勇気ある撤退ほど大きな経験値を得られるものはありません。
作戦はいつも『いのちだいじに』
しかも登山のいいところは、行った分だけ確実に経験値が積み上げられて、レベルアップを実感できるという点です。
また『イベント』は、数え切れないほど世界中に溢れているので『死なない限り終わらないRPG』であるとも言えるかもしれません。
だから常に『いのちだいじに』で続けていけば、誰でもすごいレベルに到達できる可能性があるのです。これってすごいワクワクする要素だと思うんです。
登山準備は制約があるから楽しめる

そして先に申し上げた装備・道具の具体例です。
道具屋(=登山用品店)での事前準備には『リアルRPG』であるがゆえの制約が出てきます。
我々の「趣味の登山」においては、
- 金銭的な制限
- 体格・能力の差
- 総重量などの物理的限界
などが存在し、一番はやはり、多くの人が限られた予算の中で装備を揃えなくてはならないところが非常に『リアル』であると言えるでしょう。
お金持ちは登山を楽しめない?
でもこの予算の縛りがなければ、逆にレベルアップは見込めません。
自分の実力と目的地の難易度に見合った装備がわからなければ、どれだけ高価で高機能のギアも宝の持ち腐れになりかねず、そうは言っても装備の優秀さが実力をカバーしてしまうことも起こり得るため、
- 自分に足りない能力
- さらに難易度の高い場所で必要になるもの
に気づきにくくなってしまいます。つまりゲットできるはずの経験値が少なくなってしまうのです。
かと言ってギリギリの装備で挑めとは言いませんが、案外、多額のお金を注ぎ込んだ万全の装備がぜんぜん使いこなせない=使い物にならなかったという経験談はよく耳にします。
(本当のテレビゲームでも、序盤の街にとてつもなく高い武器が急に売っていたりしますが、基本的にゲームを進める上で必要なものではありません)
攻略に必要なアイテムがある

つまり本当にRPGを攻略するがごとく、倒せそうなモンスターを倒しながらレベルをコツコツと上げ、十分なレベルに到達したらボス級のモンスターに挑戦していくということが登山スキル上達においても言えるわけです。
また、ゲームを進めていく中で『あの街でしか売ってない炎の鎧』がどうしても必要になった場合に初めて、高価な海外メーカー製の高機能ギアを買い求めればいいのであって、むしろそれが必要になる局面を夢見て、今は自分のレベルの範囲で楽しめばいいのだと思うわけなのです。
無限に楽しめる登山ギアの世界

そして、ゲームと違ってリアルな世界では、
道具がダメになる、失くす、または身体に合わない、色が気に入らないなど様々な要素を考慮しなければならない事に加え、
膨大な選択肢の中から、登山用途でないのに使い勝手抜群のもの、レアな逸品、自作で作れちゃうもの、思い入れが強く手放せないアイテムなども存在してくるので、まさに楽しみ方は無限で、ハマってしまうとなかなか抜け出すことができない深みがあるわけなのです。
先人の知恵を借りながら、現代のテクノロジーでより優れたアイテムを見つけ出す。こんな楽しみ方は今しかできません。
身につけたスキルは一生もの
その上、登山=RPGを進める上で身につけた経験、手に入れた知識と道具は、登山以外でも生かすことができます。
災害時はもちろん、海外で思わぬ不便な状況に陥った際なんかにも自分を助けてくれるかも知れない。
もちろん「芸は身を助ける」局面はどんなことに従事していても起きることではありますが、とりわけ自然の脅威に対してそのまま応用できる能力に関しては秀でる部分がありそうです。
理由抜きに楽しいから登る

いかがでしたでしょうか? 最後まで書いてみて結局は堂々巡りで「理由は楽しいから」でいいような気もしてきました。
ただ、わたし個人としては、非常にしっくりくる「登山が楽しい理由」であり、また初心にかえって自分のレベルを見直す機会にもなりました。
山に登る理由の極致は「そこに山があるから」になるのかも知れませんが、今のところ、わたしはそんなふうに実感できませんし、極論は「理由は人それぞれ」であるとしか言いようがありません(元も子もありませんが)。
ただしやっぱり「何事も楽しんでやること以外に正解はない」とも思っているので、この考えがどなたかの登山を楽しむ理由としてお役に立てば幸いです。
ある意味で経済的な考え方と言える部分もあるので、わたしも高価な冬ギア(パタゴニア新製品のマクロパフ)に焦がれるのは今シーズンは我慢しておこうと思います。