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HAIM『summer girl』の元ネタは?|ルーツを掘る聞き方のススメ

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「歴史は繰り返す」なんて言いますが、音楽やファッションにおいても流行が周期的に繰り返しているって話はよく耳にしますよね。

正直、自分が10代20代の頃は体感としてほとんど感じなかったのですが、30代半ばにしてその言葉の確かさを目の当たりにすることが多くなりました。

そして今回は、ちょうどこの「流行サイクル」が感じられる曲がリリースされたので記事にしようと思いました。

すごく勘が良かったり、自分の中にたくさんのデータベースを持った人は、次のムーブメントを先取りするヒントになるかも知れないし、それとは別に、単純にアーティストのルーツを探ったり楽曲の関連を知ることは楽しいことだと思います。

ちょっと大げさですが、音楽の楽しみ方が増えると人生が豊かになるように感じます。身の廻りの出来事を捉える視野が広がるような感覚です。

もしかしたらこの記事も、誰かの音楽の楽しみ方を変えるきっかけにもなれるかも知れません。よかったら続きを読んでみてください。

今回紹介する楽曲は、LAの三姉妹バンド、HAIM(ハイム)による新曲『summer girl』、2019年8月のリリースです。

HAIM『summer girl』の元ネタは?

洋服を脱ぎ捨てながら、陽気に通りを練り歩く三姉妹と日没間近の淡い光とが相まって、絶妙にノスタルジックなビデオになっています。

HAIMは、86年〜91年生まれの実際の姉妹からなるバンドで、幼い頃から両親とともに「ロッキン・ハイム」というカヴァーバンドを結成し活動するなど、幼少期から音楽が近くにある環境で育ったそうです。

ガールズバンドらしからぬと言ったら失礼ですが、確かに楽器をプレーしながら歌う姿がとても自然で、堂に入っている感じがします。

2013年のデビューアルバム『デイズ・アー・ゴーン』は全英アルバムチャートで首位、Billboard 200チャートでも上位を獲得しています。

さてこの楽曲、知ってる人は開始10秒で「あれ?」と思うはず。

というのも思いっきり、Lou Reed『Walk on the Wild Side』のインスパイアフレーズから始まるからです。

『ワイルド・サイドを歩け』イントロのパンチ力

『Walk on the Wild Side』冒頭のベースフレーズは、低音と高音を交互に行き交うウッドベースとエレキベースが2本重ねて録音されていますが、かなり独特な響きをしています。

シーソーのように行ったり来たり、一聴すると牧歌的な印象のフレーズなのに同時に儚さや不穏なイメージを内包しているように聞こえてくる、まさに『Walk on the Wild Side(邦題:ワイルド・サイドを歩け)』というタイトルのイントロを飾るに相応わしいフレーズと言えるでしょう。

一方、『summer girl』のベースラインでは、やはり2本のベースを使用している点は同じ、フレーズも似ています。

ただかなり特徴的なのは、完全に左右に振り分け2本とも曲中ずっとループさせている点。ドラムも含めバンドサウンドというより、バックトラックといった作りかも知れません(このトラック感については後ほど)。

さらに曲中のコーラスやサックスの置き方もそのまま持ってきている部分が多く、実際レーベルの公式アナウンスにも次のような記載がありました。

エスティ、ダニエル、アラナの3姉妹から届いた新曲はルー・リードにインスパイアを受けたというレイドバックしたナンバーで、

カリフォルニアの美人3姉妹=ハイムが2年ぶりの新曲「Summer Girl」をリリース!ポール・トーマス・アンダーソン監督が手掛けたミュージック・ビデオも同時公開!

やはり意識して制作したわけですね。

また、作曲のエピソードして、

メンバーのダニエルは「私のパートナーが癌になったのが分かった時にこの曲を作り始めたの。私はツアーに出ていて、ポジティブなエネルギーをテレパシーのように送りたかった。ショウの合間に家に戻るときはいつでも彼の太陽になりたかった。彼が沈んでいる時は夏のように、彼が絶望している時は希望になりたかったの」と語っている。

カリフォルニアの美人3姉妹=ハイムが2年ぶりの新曲「Summer Girl」をリリース!ポール・トーマス・アンダーソン監督が手掛けたミュージック・ビデオも同時公開!

とあるので、歌詞の内容に関しては私生活的なもので、元ネタから直接インスパイアされた部分は薄いように感じます(ちなみにダニエルの恋人は、デビュー当時からHAIMのプロデューサーとしてクレジットされている人物で、現在はガンを克服されているそう)。

『Walk on the Wild Side』の米国でのリリースは73年なので、実に46年前の楽曲という事になります。まったく色褪せることのない名曲ですが、当然HAIMのメンバーは生まれる前なので、両親が愛聴していた音楽の一つだったのでしょうか。

もう一つの元ネタ『Can I Kick It?

そして『Walk on the Wild Side』を元ネタとして私の世代が真っ先に思い浮かべる楽曲と言えば、HIPHOPグループ、A Tribe Called Questの『Can I Kick It?』です。

「テストに出ます! セットで覚えておきましょう。」くらいに代名詞的な曲でした。

こちらも冒頭のベースラインをまるっとサンプリング、曲中のサックスフレーズは切り刻まれてサンプリングされ、別のメロディに仕上げられています。

そしてちょっと小ネタ的な話ですが、『Can I Kick It?』リリース当時、Lou Reedが楽曲のサンプリング使用に難色を示し、結局クレジット的にはLou Reedの曲として世に放たれたため、ヒットしたにも関わらずATCQ(A Tribe Called Quest)には一銭も入らなかったそうです。

ルー・リードは『使わないでくれ』って言うかわりに、『使ってもいいけど、入るお金は全部いただくよ』って言ったんだ」

ア・トライブ・コールド・クエスト、「“Can I Kick It?”の印税は全部ルー・リードが持っていった」と明かす

確かにYouTubeのクレジットは未だに、

作詞 / 作曲 Lou Reed……、ちょっと悲しいエピソードですが、80〜90年代のHIPHOP発展過渡期にはサンプリングが許可されない、理解が得られない事例は多くあったようなので仕方ない部分もあるでしょうか。

ちなみに歌詞の「Kick It」は、遊ぶ・リラックスする・チルする、くらいの意味なのでタイトルは「ちょっとチルしていかない?」みたいな手招きするようなニュアンスと、HIPHOPではバースを蹴る、キックするとか言うので「ちょっとラップでカマすよ?」のようにも取れる気がします。

これは憶測ですがひょっとしたら、Lou Reedに対しての「この曲の上でバース蹴っていいすか!?」みたいな意味もあったんでしょうか?

結果、Lou Reedの返事は「Yes, you can」とはいかなかった訳ですが。。

ジャケットもサンプリング!?

でもって、HAIMの『summer girl』、ジャケ的な扱いのアートワークがオフィシャルHPにあったので見てください。

で、これもなんか見た事あるぞってことで、コチラ。

ご覧の通り、どうやらATCQのアルバムジャケットのオマージュらしいことが見て取れますね。

元ネタの元ネタがあって当たり前の時代

そもそもATCQのLou Reedサンプリングで画期的だったのは、あのベースのイントロにビートを合わせて鳴らすと気持ちいいぞ!っていう発明でした。

HAIMもまた、ベースのフレーズに落ち着いたビートを合わせて、より穏やかな表情に仕上げていますが、やはりATCQの発明ありき、元ネタもサンプリングミュージックも、全部引っくるめてインスパイアしていると言っても良さそうです。

どちらかと言えばむしろ『summer girl』は、終始ループするベースラインが織りなす「トラック感」、アートワークやHAIMの年代から言ってATCQからのインスパイアの方が色濃いと言っても決して強引ではないはずです。

音楽の流行サイクル検証は困難

ATCQのリリースは90年なので、2019年から数えて29年前。

そして、73年のLou Reed(英国では72年末)が、そのまた17年前。

こう見ると、単純な年数による周期性は成り立ちませんね(記事を書き始めたとき勘違いしていてちょうど27年周期が成り立つと思い書き出したのですが……調べて見たら全然違いました)。

気を取り直してと。

でもこうなると、たとえばLou Reedの17年前、50年代の音楽にも俄然興味が湧いてきたり、20年後の未来に現在の音楽がどんな風に残っているか想像するのも楽しいかも知れません。

サブスク時代を先人たちはどう見るか

音楽が記録されるようになってから長い年月が経ち、いま生きている我々はそれらをズラーッと並べて聴くことができるラッキーな時代を生きています。

それもSpotifyやYouTubeを使って、いとも簡単に。

今はまだ、アルゴリズムによってオススメされる音楽は、サンプリング元やインスパイア元、いわゆる文脈みたいな部分までは網羅していないように思いますが、近い未来にすぐに実現するでしょう(トラックメーカーが元ネタを探すツールはすでにある)。

ある種、AIにすべて先読みされてしまうような時代には、一体どんな音楽が生まれてくるのか。さらに、そのアルゴリズムに対抗して今度はどんなカウンターが出てくるのか。リスナーとしては非常に楽しみです。

そして、今の時代の流れを敏感に察知していれば、次のムーブメントの先頭に立つこともできるのかも知れません。

また一方で、簡単に音楽が手に入る分、失っているものはどんなものなのか考えることもまた、未来と同じくらい大切なように思います。

30代半ばにして、思春期の流行から一回りした世界をいま現在見ているような感覚があります。今後も自分の世代ならではの情報を紹介できたらと思っています。

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