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シム・ウンギョンが映画「新聞記者」に加えたリアリティ

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話題の「新聞記者」で松坂桃李さんと共に主演を務め、その存在感を存分に発揮した俳優シム・ウンギョンさん。

彼女自身の紹介と合わせて、彼女が映画「新聞記者」においてどのような役割を果たしたのか考察します(ネタバレ的な考察ではなく、あくまで彼女の存在が作品にどういった影響を及ぼしているかという観点で)。

  1. キャリアや生い立ち
  2. 映画「新聞記者」での役どころとその機能
  3. 彼女の活躍に見る日本映画の行く末

3.は少し大げさかも知れませんが、そんな壮大なテーマすら考えさせられるほどに彼女の演技に衝撃を受けたことを先にお伝えしておきます。またタイトルや見出しなどは簡潔にするため、お名前の敬称を省略しています。お許しください。

映画全体の紹介記事はこちらです。よろしければ。

シム・ウンギョンとはどんな人物か

ミニシアター通信|『ブルーアワーにぶっ飛ばす』特報映像

かんたんに生い立ちを紹介すると、

1994年生まれの韓国出身、9歳から子役として活躍し、国内のドラマ・映画に出演。
16歳で芸能活動を休止しアメリカへ留学。
修学後にも再び俳優として活動し、現在は韓国と日本を行き来しながら活躍の場を広げている。
主な出演作には『サニー永遠の仲間たち』(11)、『怪しい彼女』(14/主演)など。
趣味は歌。特技はテコンドー。

参考:シム・ウンギョンが日本映画に挑戦したわけ。韓国人気女優の素顔 - インタビュー : CINRA.NET

「新聞記者」でも日本語はもちろん、自然に英語を扱うシーンが度々出てきます。また上記と同じ記事の中で、

シム:最近は日本の、少し昔の音楽をよく聴いています。山下達郎さんや竹内まりやさんが好きなんですよね。最近Youtubeとかで流行っている「ヴェイパーウェイヴ」の流れから入ったんですけど、どうも私は、日本の1980年代の「シティーポップ」と呼ばれるものが好きみたいで、そこから自分でいろいろ探しています。吉田美奈子さんや八神純子さんも、最近よく聴いています。

https://www.cinra.net/interview/201905-shimbunkisha

と、音楽好きな一面を語っています。確かにいま日本のシティーポップは世界的に評価が上がり認知度も高まってはいるようですが、異国で受けるインタビューに対してこの受け答えには正直驚きました。

個人的には、趣味ひとつにしてもバックグラウンドやジャンルまで把握している点に、彼女の勉強熱心で好奇心旺盛な姿を想像しました。

趣味が歌ということもあり、各国の音楽を通して外国語を習得しているのかも知れませんね。劇中でも巧みに日本語を操ってらっしゃいました。

『吉岡』としてのシム・ウンギョン

YouTube ムービー|映画「新聞記者」

ウンギョンさんは「新聞記者」の中で、『吉岡エリカ』という記者を演じています。ジャーナリストで日本人の父親と韓国人の母親を持ち、アメリカで育ったのち日本の『東都新聞』で働いているという設定で、実際のウンギョンさんの生い立ちと重なる部分があります。

劇中での吉岡は、実名のツイッターアカウントで自らの意見を遠慮なしに書き綴ったり、粘り強い性格で上司から厄介者扱いされたりと、ジャーナリズムへの情熱を強く持った人物です。

言葉の再認識を求める『吉岡』の日本語

劇中での彼女の日本語セリフは、もちろんネイティブではないので少したどたどしく聞こえてきます。その「片言の加減」こそ、観客が引き込まれる要因になっていると思うのです。

『内調』や『特区』といった日本人でも馴染みの薄いワードを扱うとき、その発音のたどたどしさによって、より記号的な響きに聞こえ、違和感や異物感を演出しています。

同じ言葉でも、ネイティブの日本人が発していたら無意識にスルーしてしまう言葉を、吉岡の口から発音されることで意味を再認識させる、再定義させる、そんな働きが生じているように感じました。

当然これはキャスティングの段階で製作陣が狙っている部分が大きいと思いますが、言語の習得は不可逆的なものですから、これ以上うまくても、逆に拙くても成立しない絶妙なバランスが映画にハマったのではないでしょうか。

リアルよりリアリティ

Photo by Francesco Ungaro from Pexels

またエンターテイメント作品は、ある程度の演出や誇張があって然るべきです。しかしその演出が過剰になるばかりに、日本のドラマや映画作品にはあまりにリアリティが損なわれ感情移入できない作品も少なくありません。

「いくら敏腕社長でもそんなセリフ言わないだろ」とか、「こんな小綺麗なままでいられる漂流者はありえない」とか、芸能界のパワーバランスも相まってか不自然な配役や設定が気になって作品にまったく入り込めなかったという経験はないでしょうか?

「新聞記者」では、ウンギョンさんの佇まいが、もしくは彼女への演出が作品に生々しさを加えている部分が大きいように感じました。
もちろん他の登場人物、設定もリアリティに寄与していますが、彼女は「記者ってこういうイメージ」を忠実に再現しながらも、これからの未来のジャーナリスト像をも見せた、という印象です。

少し偏った見方ではありますが、もし国内の俳優が演じていたら『吉岡』の大胆さやハッキリした物言いは少々浮いて映ったかも知れません。

国内のエンターテイメントはどう移り変わるのか

蛇足ですが、日本の映画やドラマの行く末についても感じたことを最後に少し。

言語の壁はテクノロジーの発展で緩和されるかも知れません。しかし、世界を俯瞰して見る能力は翻訳機械で補えるようには思えません。

個人的な見解ではありますが、どうも「翻訳機待ち」な感じがするのが今の日本です。もちろん自分も例外ではないので偉そうなことは言えませんが、ウンギョンさんの「新聞記者」での生々しい演技に、もっと言えば彼女の挑戦にもっと危機感を持つべきなのではないかと感じました。

ネタバレ回避のため、できれば具体的な仕草やセリフについてもさらに言及したかったのですが控えました。この記事で少しでも興味を持って「新聞記者」やウンギョンさんの演技を見ていただけたら幸いです。

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