巷に「AI・5G・IoT」なんてワードが飛び交い出して既に久しいですが、今のところ、生活に浸透してきたと実感できる瞬間はまだ少ないように思います。
わたしはと言えば先日、知人に勧められるがまま「G検定」なる、ディープラーニングにおける知識を問う試験を受験し、無事資格を取得したところなので、最新テクノロジー熱が冷めないうちに趣味の登山に関しても考察してみようと思います。
一応、G検定合格者ではありますが、研究職であったり最先端の専門知識を有している訳ではありませんので、あくまで一個人の見解としてお読みくださいませ。
もくじ
アウトドアに関係する新しい技術

まずは最新技術が影響してきそうな領域をピックアップしてみると、
近い将来導入・実用が期待されるのは、
- レスキュー系 → ドローン、5G・LPWAなどの通信技術
- 危険予測系 → AI・機械学習
- シミュレーション系 → VR、ウェアラブルデバイス
以上の3項目でしょうか。
順番に具体例をあげていきたいと思います。
1.レスキュー系(LPWA&ドローン)
まずはLPWAの大まかな説明をどうぞ。
LPWA = Low Power Wide Area (長距離のデータ通信&低消費電流)
→電池数本で年単位もつような低電力で使える通信技術
IoT(モノのインターネット)実装において期待されている通信方式
実際の山岳地帯での使用を考えると具体的には、
例えば、現在のGARMINのGPS地図・トラック機能、テキスト送信機能や、ビーコンの担っている役目を代替する可能性が出てきそうです。

つまりこれまで衛星を介して通信していたGPS技術に対して、山頂付近に設置したLPWA機器(基地局)を介して通信できるようになることで、より安定的に情報を外部と伝達し合えるようになるわけです。
では、どうやって山頂付近に通信拠点を設けるのかと言うと、、
LPWAの利点
そもそも山中の通信環境の整備が進まなかった理由として考えられるのは、
- 環境ダメージ
- 電力供給
- 資材の運搬・施設の設営が困難
- 非通信エリア喪失への嫌悪(ロマンの欠如)
ただし、これらは電波塔などの大掛かりな通信拠点を建てる際に障害となる要素です(4.以外)。
そこへ、小型で省電力のLPWA機器を通信拠点に用いる事ができれば、多くの障害がクリアされる可能性があります。


またLPWAは、拠点側(基地局)だけでなく、わたしたち登山者が身につける機器も同時にLPWAを使用しますので、重来のGPS機器に比べて、
- 小型軽量
- バッテリー切れのリスク減少
- 安価(普及が進めば)
という利点があり、
なにより通信の安定によって遭難時の捜索の助け、遭難者自らのルート復帰、もしくはSOSを外部に発信できるので、遭難事故の減少に大きく貢献するのではないでしょうか。
すでに一部山域で導入もされているようです。
→TREK TRACK
まだまだ完全に実装されるとしても先の話ではありますが、「GARMIN高くて買えないから、安全が確保されたようなルートしか行けないわ……」などの悩みは案外早く解決されるかも知れませんね!(安全に越したことはありませんが)
救助ドローンの導入

ドローンについては、比較的ほかの技術よりも話題に上りやすいトピックで、すでに山岳救助に導入されていることをご存知の方も多いと思います。
気象条件の影響を受けやすいので、使用できる山域は限られると思いますが、赤外線カメラを搭載するなど、夜間の捜索が可能になり活躍の場を広げています。
今後、ドローンからの撮影データ送信にもLPWAが使えるようになれば、よりスピーディーな救助が可能になるのではないでしょうか。
2.危険予測系( AI・機械学習)

救助などの事後対策の技術に合わせて、事故を未然に防ぐ事前対策にもテクノロジーは大きく影響してくると思われます。
具体的には、
- 気象予測
- 潜在的危険箇所予測
1.については、もはや説明不要という感じでしょうか。
ビッグデータの利用により、膨大な天候データを人工知能に学習させることで、より精度が高く、局地的な気象予想が可能になっています。
また、いままでの人間の叡智では見出せなかった規則性を発見する事もあるかも知れません。
「山の天気は変わりやすい」というセオリーの通り、一筋縄でいかなかった標高の高いエリアの予測ですが、データの運用管理が容易になり、今後さらに精度は増してくると考えてもよさそうです。
潜在的危険箇所とは

無雪期の登山道で言えば崩落や滑落多発箇所、雪山だと雪崩頻発エリアなど、パッと見だと平気に見えるけど実は危険が潜んでいる場所のことですね。
いま現在でも、小屋を管理する方々をはじめ、人間の手によって危険区域には立て看板などが設置され注意が促されています。
その情報に加えて、ここでまたしてもLPWAですが、山中においても通信が安定すれば、マップアプリと連動させることで、登攀中にリアルタイムで危険を警告してくれるシステムも一般化してきそうです。
また、天候データやドローンの撮影データをAIに学習させれば、将来的には危険頻発箇所だけでなく、一時的に悪条件が揃っている箇所の判別も可能になるかも知れません。
想像される実装パターン
あと実使用に関して想像できるとすれば、すれ違う余裕のない登山道で「この先で下山してくる大人数パーティとすれ違うから、10分後に小休止をとって一気にやり過ごすといいですよ」みたいなアドバイスを自動音声がくれたりとか。。
(人情味の欠片もないような話ですが、自分がソロで、団体とすれ違うのって結構大変ですからね)
事故を防ぐ、お互いストレスなく、という意味では悪くないかも知れません。
いま現在もマップアプリを使用していれば、既に個人の行動データはある程度収集され、それらを使ったサービスが実用化に向かい始めています。
テクノロジーで山の体験をアップデートするYAMAPの取り組み(19/07/08)
https://note.yamap.com/n/n254ea07bd34f
3.シミュレーション系(VR)

ここからは余談です。実使用されるとしてもまだまだ先の話でしょう。
これまで書いてきたように、登山道の画像データや、さらにはカメラ付きアイウェア、センサー付きシューズなどで足裏の感触、音声なんかもデータとして収集するようになれば、現地に行かずにヴァーチャルリアリティの映像の中で登山を体験できる未来がやって来るかも知れません。
あのランニングマシーンみたいな機械に乗って、VRゴーグルを付けて屋内でヴァーチャル登山をするわけです(いまのところのイメージだと)。
この手の話は、聞くやいなや「自然をナメるな。けっ!」と感じられる方も少なからずいると思います。
かく云うわたしも手離しには賛同しません。
ただ考えられる用途として、
- ハンディキャップがあっても登山体験ができる
- 難所の練習や訓練ができ、実際の事故を減らせる
など、今までどうしようもなかった問題を解決する、いい側面も出てくるのかなと思ったりもしています(もちろん懸念点はこの何倍も多く思いつきますが)。
結局、なんでも「モノは使いよう」ですよね。
すごいテクノロジーが実用化される前に、それらと上手に付き合える余裕と辛抱強く観察する胆力を、実際の登山を通して身につけておきたいものです。
テクノロジーに支配されない登山

今回は思いつくまま駆け足で書いてしまいましたが、これからは日々リサーチしながら、この手のニュースには一層目を光らせて追加報告していきたいと思っています。
いわゆるストイックな自然派からするとデジタルは邪道という声も聞こえてきそうですが、個人的にはせっかくこういう時代に生きているので、一旦は面白がってみようかなというのが今の考えです。
しかし一方で、山岳地帯に生息する動植物、主に鳥類などに対して、電磁波や通信電波、またドローンの飛行がもたらす影響は現状しっかりと明らかにはなっていません。さらには人間への影響にも同様のことが言えるかも知れません。
技術や産業化の波には逆らえない面がありつつも、できる限り広い視野でい続けたいものですね。